3.毛糸を使った具体的な授業の例
(1)週2時間を4週間で行う最短のパターン
第1週:導入とプランニング
ひとりひとりに4ツ切りの厚紙をふたつ折りにしたものを3枚ほど重ねた「プランニング・シート」と、毛糸玉をひとつ渡し(これを各自最後まで管理することになる)、毛糸についてのイメージやそこから連想されるものを「プランニング・シート」に上げていってもらう。それからそれを何人かに発表してもらう。
1.感覚的なことがら(やわらかい、ふわふわしている、あたたかそう…)
2.使用目的や原料として(編み物、セーター、羊、アクリル…)
3.比喩的、文化的文脈(お母さん、やさしさ、冬、運命の赤い糸、結びつき、虹、橋…)
おそらくそれらは以上のような「一般的」なものとして上げられてくると思われますが、ひとの発表を聞いているうちにいろいろな連想や、個人的な話などが出てくるかもしれません。それが制作後、どう変わるかに注意を促します。
以上をもとに、あるいはもとにせず、5〜6人のグループをつくり、プランをつくります。 ここで決定する大まかな事項は、
1.場所
2.具体的な作品の内容(姿、スケール、使用する毛糸の量など)
3.制作の手順や役割分担
といったものが考えられます。
「イメージ」や「テーマ」をある程度決めてそれをもとに、あるいは設置する場所さがしからはじめ、その場所の要請する条件からなど、いろいろな作り方があることを示唆しながら、まずは各個にプランをつくってもらいます。校内の、使えない場所を上げておきます。使える場所からとんでもない場所を探し出してくるかもしれません。また、作品は造形に限らず、行為(毛糸を投げたり、引っ張ったり、ものすごく長いなわとびとして使ったり)でもいいわけで、どのようなものも前提されていないことはくり返し注意を促します(たとえば、素材として「毛糸を使って」という指示はあれ、毛糸のみに限定しているわけではないので、好きなものをもってきてぶらさげるなども考えられます。そうした勝手につくりだしている常識的な枠組みに気づかせるのも、アート制作体験の大きな任務ではないかと思われます)。
「プランニング・シート」などを使い、自分にだけではなく、ひとにわかるように、プランをつくっていきます。ある程度できてきたら、グループ内でそれぞれのアイデアを出し合い、メンバーがつくれる範囲内で作品を具体的に決定します。作品のプランニングのために現地のスケールをはかってみる(歩数などを使って)などする必要があるかもしれません。
作品はみんなで1つのものをつくることにしてもいいでしょうし、ひとりひとつつくりたい、というのもいいかもしれません。ただし、毛糸玉はひとり1個なので、大きな作品や色々な色の入った作品をつくるには「協働」して制作するしかありません。また、時間的な制約もあります。
毛糸は個人の管理とし、毛糸と「プランニング・シート」とともに1週間過ごすことで、プランの熟成を待ちます。
第2週:プランニングの完成と発表
各グループのプランニングを続行するとともに、この段階でプランの発表を行います。イメージスケッチをスライドで表示するなどしながら、場所や作品の内容、意図、制作手順や役割分担などについて説明します。それにもとづいてプランを深化させるための質問や提案などを出してもらい、最後にプランの練り直しをします。
第3週:制作
それぞれのプランにしたがい、グループ単位で制作を行います。制作しながら、実際にやってみての改善点などあれば修正を加えていき、完成したら他のグループの作品を相互に見学します。次週「発表」の資料として使うので、「プランニング・シート」を記録ノートとして使い、考えたことなどをメモしておくようにします。
作品の記録を撮ります。
できた作品はその時間のうちに撤去するか、ある程度展示した後に撤去するかします。
第4週:発表
各作品の映像を、スライドやビデオなどで映し出しながら、今一度どのような意図でつくったのかなどの説明を行うとともに、プランニングと実際の制作、展示ではどのような点がちがったか、つくってみて毛糸やアート作品についての考えで変わった点などあるか、あればどのようにかなど、ある程度項目を決め、発表してもらう。
同時に、その場で見た「実物」と、映像というかたちを通してみるそれとのちがい、つまり見せ方などについても注意を促す(画像の選び方や、テキストなどを入れるとどのような効果があるかなど)。
また、以上の記録を、パソコン等を使ってひとつのメディアにしていく(1冊のパンフレット、1枚のCD、ウェブサイトなどにまとめる)というのもおもしろいと思います。
(2)週2時間を8週間で行う発展的なパターン
(1)を1クールとし、さらにもう1クール同じ内容のサイクルを行うことにより、「こうすればよかった」「こんなこともしたかった」といった意欲にこたえることができると思います。おそらくそうした思いは、「どんな準備や手順が必要か想像していなかった」とか、「そんなことをしてもいいとは思わなかった」などといったことからくるものではないかと思われます。
こうした反省を活かすことで、実際に作ってみる前に想像してものを考えたり、実物を使わずにひとにものを伝えたりするトレーニング、つまりアイデアを視覚化・言語化する能力を養うだけでなく、そのために必要な手順や準備についてのイメージを培ったり、自ら作り出してしまう常識的な枠を乗り越えようとする意欲、つまりは何かをつくり出すおもしろさを体験できるのではないかと思います。
(3)未知の場所での制作活動
(2)を行ったグループは、すでにひととおりの手順をマスターしていると思われるので、今度は訪れたことのない場所を想定したプランづくりを行うことを提案したいと思います。
今想定しているもっとも魅力的な場所が、このページの最初に上げた仙台市青葉区芋沢にある畑前草地で行う「牧草地へ行こう」です。ここで毛糸を使った作品制作を行うことは、未知の場所を想定してプランニングを行うというおもしろさもさることながら、何よりその圧倒的なスケールと直に接することのすばらしさ、そして「こんなことをしてもいいんだ」という突き抜けたアート体験をする機会になるのではないかと思います。
また、牧草地を中心とした産業についての学習も並行して行う、あるいはそうした学習の中に本企画を取り入れることで、総合的な学習としての企画にもなると思われます。
たとえば、畑前草地のある川前小学校では総合学習で毎年、近くの農家などのお話を聞いたり、田植え体験をしているそうなので、その中で「牧草地を体感しよう」といった項目で入れてもらうと即座に実現できるかもしれません。
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