Yarn Project
毛糸を結んで結ばれて

「牧草地へ行こう」
〜毛糸を使った図工の時間〜

 


私は仙台を拠点に、毛糸を使ったインスタレーション作品を制作しています。そこでその利点を活かした図工や美術の時間を提案したいと思います。以下、次の項目にしたがって説明していきます。
1.毛糸を用いる利点
2.最終的な到達点としてのプラン「牧草地へ出かけよう」
3.毛糸を使った具体的な授業の例
4.これまでに行った参加者をともなった制作の例
5.本企画へいたるプレ企画

1.毛糸を用いる利点
毛糸を用いる利点としては、まず素材という面から見ると、施設を汚さず、安価で(80mで105円〜)、安全に(毒性もなく、目に入る危険や割れる危険もない)、大規模な作品をつくることができ、片付けも比較的容易であることがあげられます。
また、制作という面から見ると、技術的な熟練をあまり要さず、修正も容易で、なかなか他の素材では得られないような大規模なプランニングや共同作業を行うことができます。
さらに、毛糸という日常的な素材を非日常的に使うような、アートのもつおもしろさを体験することで、同様の発想への目を育むことができるのではないかと思います。

 

2.最終的な到達点としてのプラン「牧草地へ出かけよう」
仙台市青葉区芋沢にある畑前草地。複数の農家が共同で所有する牧草地で、私は数年前からここへ出かけ、スケッチをしたり、毛糸を結んだり、ただ散策をしたりしてきましたが(たとえばこちら)、見渡す限りのこの牧草地に少年少女を連れて行き、イメージスケッチにあるような造形やパフォーマンスを行うことで、生活空間をはるかに超えた場所を体感することができるのではないか、その圧倒的なスケールと直に接することで、日頃は味わえないようなたぐいのアートの制作や鑑賞を体験できるのではないか、そしてまたとにかくそれは端的に言ってものすごく面白いのではないかと思い、どうにか具体化できないかと目下模索中です。
そこで以下、こうしたアート制作に至る手順、至らねばならない理由を説明します。
 

 

3.毛糸を使った具体的な授業の例

(1)週2時間を4週間で行う最短のパターン

第1週:導入とプランニング
ひとりひとりに4ツ切りの厚紙をふたつ折りにしたものを3枚ほど重ねた「プランニング・シート」と、毛糸玉をひとつ渡し(これを各自最後まで管理することになる)、毛糸についてのイメージやそこから連想されるものを「プランニング・シート」に上げていってもらう。それからそれを何人かに発表してもらう。
1.感覚的なことがら(やわらかい、ふわふわしている、あたたかそう…)
2.使用目的や原料として(編み物、セーター、羊、アクリル…)
3.比喩的、文化的文脈(お母さん、やさしさ、冬、運命の赤い糸、結びつき、虹、橋…)
おそらくそれらは以上のような「一般的」なものとして上げられてくると思われますが、ひとの発表を聞いているうちにいろいろな連想や、個人的な話などが出てくるかもしれません。それが制作後、どう変わるかに注意を促します。
以上をもとに、あるいはもとにせず、5〜6人のグループをつくり、プランをつくります。 ここで決定する大まかな事項は、
1.場所 
2.具体的な作品の内容(姿、スケール、使用する毛糸の量など) 
3.制作の手順や役割分担 
といったものが考えられます。
「イメージ」や「テーマ」をある程度決めてそれをもとに、あるいは設置する場所さがしからはじめ、その場所の要請する条件からなど、いろいろな作り方があることを示唆しながら、まずは各個にプランをつくってもらいます。校内の、使えない場所を上げておきます。使える場所からとんでもない場所を探し出してくるかもしれません。また、作品は造形に限らず、行為(毛糸を投げたり、引っ張ったり、ものすごく長いなわとびとして使ったり)でもいいわけで、どのようなものも前提されていないことはくり返し注意を促します(たとえば、素材として「毛糸を使って」という指示はあれ、毛糸のみに限定しているわけではないので、好きなものをもってきてぶらさげるなども考えられます。そうした勝手につくりだしている常識的な枠組みに気づかせるのも、アート制作体験の大きな任務ではないかと思われます)。
「プランニング・シート」などを使い、自分にだけではなく、ひとにわかるように、プランをつくっていきます。ある程度できてきたら、グループ内でそれぞれのアイデアを出し合い、メンバーがつくれる範囲内で作品を具体的に決定します。作品のプランニングのために現地のスケールをはかってみる(歩数などを使って)などする必要があるかもしれません。 作品はみんなで1つのものをつくることにしてもいいでしょうし、ひとりひとつつくりたい、というのもいいかもしれません。ただし、毛糸玉はひとり1個なので、大きな作品や色々な色の入った作品をつくるには「協働」して制作するしかありません。また、時間的な制約もあります。
毛糸は個人の管理とし、毛糸と「プランニング・シート」とともに1週間過ごすことで、プランの熟成を待ちます。

第2週:プランニングの完成と発表
各グループのプランニングを続行するとともに、この段階でプランの発表を行います。イメージスケッチをスライドで表示するなどしながら、場所や作品の内容、意図、制作手順や役割分担などについて説明します。それにもとづいてプランを深化させるための質問や提案などを出してもらい、最後にプランの練り直しをします。

第3週:制作
それぞれのプランにしたがい、グループ単位で制作を行います。制作しながら、実際にやってみての改善点などあれば修正を加えていき、完成したら他のグループの作品を相互に見学します。次週「発表」の資料として使うので、「プランニング・シート」を記録ノートとして使い、考えたことなどをメモしておくようにします。
作品の記録を撮ります。
できた作品はその時間のうちに撤去するか、ある程度展示した後に撤去するかします。

第4週:発表
各作品の映像を、スライドやビデオなどで映し出しながら、今一度どのような意図でつくったのかなどの説明を行うとともに、プランニングと実際の制作、展示ではどのような点がちがったか、つくってみて毛糸やアート作品についての考えで変わった点などあるか、あればどのようにかなど、ある程度項目を決め、発表してもらう。
同時に、その場で見た「実物」と、映像というかたちを通してみるそれとのちがい、つまり見せ方などについても注意を促す(画像の選び方や、テキストなどを入れるとどのような効果があるかなど)。 また、以上の記録を、パソコン等を使ってひとつのメディアにしていく(1冊のパンフレット、1枚のCD、ウェブサイトなどにまとめる)というのもおもしろいと思います。

 

(2)週2時間を8週間で行う発展的なパターン

(1)を1クールとし、さらにもう1クール同じ内容のサイクルを行うことにより、「こうすればよかった」「こんなこともしたかった」といった意欲にこたえることができると思います。おそらくそうした思いは、「どんな準備や手順が必要か想像していなかった」とか、「そんなことをしてもいいとは思わなかった」などといったことからくるものではないかと思われます。
こうした反省を活かすことで、実際に作ってみる前に想像してものを考えたり、実物を使わずにひとにものを伝えたりするトレーニング、つまりアイデアを視覚化・言語化する能力を養うだけでなく、そのために必要な手順や準備についてのイメージを培ったり、自ら作り出してしまう常識的な枠を乗り越えようとする意欲、つまりは何かをつくり出すおもしろさを体験できるのではないかと思います。

 

(3)未知の場所での制作活動

(2)を行ったグループは、すでにひととおりの手順をマスターしていると思われるので、今度は訪れたことのない場所を想定したプランづくりを行うことを提案したいと思います。
今想定しているもっとも魅力的な場所が、このページの最初に上げた仙台市青葉区芋沢にある畑前草地で行う「牧草地へ行こう」です。ここで毛糸を使った作品制作を行うことは、未知の場所を想定してプランニングを行うというおもしろさもさることながら、何よりその圧倒的なスケールと直に接することのすばらしさ、そして「こんなことをしてもいいんだ」という突き抜けたアート体験をする機会になるのではないかと思います。
また、牧草地を中心とした産業についての学習も並行して行う、あるいはそうした学習の中に本企画を取り入れることで、総合的な学習としての企画にもなると思われます。
たとえば、畑前草地のある川前小学校では総合学習で毎年、近くの農家などのお話を聞いたり、田植え体験をしているそうなので、その中で「牧草地を体感しよう」といった項目で入れてもらうと即座に実現できるかもしれません。

 

@TANABATA.org2004(プランナー:村上タカシ)での展示東北大学片平キャンパス訪れた人に毛糸を結んでもらう。奥まったところなのであまり人が来ませんでしたが、来た人たちは毛糸を結びたがりました。
 

4.これまでに行った参加者をともなった制作の例
これまで独立したひとつの企画として、誰かに毛糸の制作に参加してもらったことは残念ながらありません。以上に提案した企画はすべてこれからはじまるものです。ただ、補助的な意味合いで、私の制作に参加してもらった事例がいくつかあるのであげておきたいと思います。

 


A個展、中本誠司現代美術館2004個展開催中、近くの北仙台小の生徒たちが毎日立ち寄って毛糸の中に入ったり、毛糸を使った「作品」をつくったり、持参したぬいぐるみを毛糸に結んで「ぶらんこ」をはじめたりしました。

 

 


Bとがびプロジェクト長野県千曲市立戸倉上山田中学校20041年生2クラス合同の総合教育の時間を使い、中学校を美術館にしよう長野の中学校の企画。生徒たちによる宣伝企画、展示物交渉、当日の説明など学芸員活動が行われました。私が出展したのは中学校に毛糸の虹をかけるという企画で、ベランダから毛糸玉を投げて「制作」を行いました。

 

5.本企画へいたるプレ企画 「虹色の橋を毎日つくる
以上のプランを実現させるための第一歩として、2005年3月22日〜27日、せんだいメディアテーク裏手の「リブリッジ・エディット」(青葉区春日町5-27 Tel/Fax 022-221-9979)にて行う私の個展会場で、制作参加者を募集し、毛糸を使ったインスタレーション作品を制作する予定です(こちら)。

   

毛糸のインスタレーション作品

home

関連リンク

SATOKO

生きてかえれ!