毛糸を結ぶわけ
毛糸を結ぶ、というこの一連の展示の出発点となったのは、『SATOKO』という1枚のCDです。それは、89年11月、オウム真理教によって殺害された坂本さとこ都子さんが、生前にのこした短い詩に、その友人であった中村裕二弁護士が加筆、シンガーソングライター国安修二氏によって曲がつけられたものです。
赤い毛糸に だいだい色の毛糸を結びたい
だいだい色の毛糸に レモン色の毛糸を
レモン色の毛糸に 空色の毛糸を結びたい
この街に生きる 一人ひとりの心を結びたいんだ
この曲のそうしたあまりに劇的な背景に、私はかえって紹介されてからも長く聞かずにいました。しかしさるきっかけでこの曲を耳にしたとき、背景となった事件とは別に、それが作品としてしっかりと自立しているというまさにそのことに、驚かされました。できうるならば、私もそうしたものを、アートの領域で表現してみたい、そしてそうした背景を知らずとも、それを見た人に感動を与えうるようなものを作りたい、そうした思いで、毛糸の展示を行っています。
|